食獣日記#3

夜中にふと目を覚ましてトイレに行こうとしたら、和室の襖から明かりが漏れている。気になって隙間からそっと覗いたら両親が畳を食べていた‥
誰でも子供時代にこうした経験をしていると思う。


畳は高級食材だ。
高級料亭で政界・経済界の大物が、芸者に囲まれてテーブルの上の酒と料理を楽しみつつ、箸休めに床の畳をつまむ。
酒と女と畳、というわけだ。
しかし、こんな美味しい物を彼らに独占させておく手はない。
試しに、自宅の和室の畳を食べてみて欲しい。
高級料亭の畳とまではいかないが、充分に食通の舌を満足させる味と香りが楽しめる。


畳はやはり、酒と一緒に楽しみたい。
そのまま食べても香ばしく渋い風味につい酒が進むが、ごま油でさっと炒めても格別だ。
ただ、自宅の畳の食べ過ぎには注意して欲しい。
食べ過ぎると、賃貸住宅の場合、敷金が返ってこない場合があるのだ。


畳には歴史がある。
畳の上の生活、そこで過ごされた時間が染み込んでいる。
畳を食べることは、その歴史を食べることに他ならない。
かつて日本人は畳の上で生まれ畳の上で死んだ。
江戸時代には、ある人が亡くなると、通夜の席でその人の部屋の畳が弔問客にふるまわれたという。
畳を食べる際には、その畳の持つ歴史に思いを馳せてみていただきたい。


次回予告:食のIT革命